家に帰るまでが遠足 ーthe time when we metー
「デザインがいいですよね。」
遠足の帰りのバスで揺られている最中。
僕に語りかけたのかどうかも分からぬほど小さな声で彼は話していた。
彼は僕に話したのだ、と頭の理解が追いついてから僕は彼の問いに対して返答した。
「え?デザイン?」
頭の理解が追いついたと言っても、なぜ彼が何の脈絡もなくデザインのことについて話し始めたのか、までについては理解が至っていなかった。
素直な疑問を僕は聞き返した。
「表紙のデザインですよ。」
見ると彼の手元には我々の学校の英語課題テキスト「英語の構文150」があった。
最近配られたまだ新しいテキスト。
新品の本というのはなんとも形容し難い感がある。
まだ誰の手にも触れられてない処女のような艶やかさ。
自然を感じさせる紙のかおり。
針のようにつんとくるインクの刺激。
もし彼がそのうちのどれかの良さを挙げていたのであれば僕もうなづけただろう。
しかし彼が良いと言ったのは”デザイン”である。
今まで本の表紙のデザインなど気にも留めなかった僕からすれば彼の視点は斬新であった。
しかしそれは斬新過ぎて当時の僕には理解し難いものであった。
高校1年生の初めての中間考査が終わり、そこでクラスの人といく初めての遠足。
最初のラポール形成に失敗すれば後々が大変になってしまうのは人生経験から理解していた。
ー分からなくても分からないなりにうなづくしかない。
僕の頭にそうよぎった。
「ああこれ?めっちゃいいよね。」
僕の咄嗟の判断で出た言葉に彼は満足そうな笑みを浮かべていた。
掴み所のない男だ。
そう思った。
そこからは彼と高1の間クラスを共にしたが、やはり最後まで僕の想像の斜め上をゆく発想を持った男だった。
高2からは文理でクラスが分かれ、文系にいった僕と理系に行った彼が混じり合うことは二度とないはずだった。
しかし今もこうしてマイメンとして共にチルしているのを思うと人生何があるか分からないものである。
彼の名は崇と言った。
あきぴで