にんじんとるねーど

富山が産んだチルユニット『石垣クリエイターズ』でみんなチルしよう

会話を終わらせる方法 ーthe time when we metー

「君さ、名前なに?」

 

 

 ”富山の勉強収容所”

他県民からはそう恐れられている僕らの高校には入学早々のビッグイベントがあった。

”新入生合宿”という名を借りた「勉強監獄合宿」である。

富山の山奥に幽閉され、2泊3日の勉強漬けの生活を強いられる。

それを経験してから他校へ転校するものは毎年後を絶たない。

教師陣からも「辛いから覚悟しておけ」と釘を打たれる。

しかも入学してすぐなので気のおけない友人と共に過ごすわけでもない。

名も知らぬ奴らと勉強して過ごすだけの2泊3日の合宿。

ただの”地獄”であった。

 

そんな初日の行きのバス、みんなの空気は重かった。

「今日僕はここで死ぬのか」

あきぴではそう思いながらバスの最後尾の奥へと乗車した。

最後尾、特に奥は一番他人との接する範囲が少ない。

それを分かりきっての、人と話さないようにするあきぴでの策略であった。

やがてあきぴでの隣に一人の男が座ってきた。

もちろん名前も知らない。クラスが一緒だったかさえも覚えていない。

あきぴではその男に無関心な態度を示すかのようにずっと何の面白味もない窓の外を眺めていた。

富山の山道である。木々で溢れかえっていて見所も何もない。

あきぴではこれから想像される過酷で残酷な未来に項垂れていた。

 

「君さ、名前なに?」 

そんなことには到底無頓着に隣の男は話しかけてきた。

あきぴではその男の勇気に感嘆せざるを得なかった。

なんて度胸のある男だ。こんなにつまらなそうにしている僕に話しかけてくるとは。

あきぴではその男の勇気と質問に応えるように言った。

「ああ、僕はあきぴで。よろしくね。君は?」

「俺はひろ。君何部だった?」

あきぴではさらに驚愕した。

この男はコミュニケーションというものを若くしてすでに心得ていた。

会話は質問と回答で繋げる。

この鉄則通りのつなぎ方であきぴでは立ち尽くす、いやバスの座席に座り尽くしてしまった。

座り尽くしてばかりでもいけないのであきぴでは早々に質問に答えた。

「剣道部だったよ。」

「え?剣道部!?」

そういうとヒロは座席の前にいた男に話しかけていた。

あきぴではますます驚嘆せずにはいられなかった。

ヒロは僕とだけの会話の輪をさらに広げようとし、より発展させようとしていた。

「ねえねえ、あきぴでも剣道部だったんだって。」

「あ、そうなんだ。よろしくね。」

恐らく剣道部であったであろう前の座席にいた男は、あきぴでとヒロにそういうと早々に前に向き直してしまった。

ヒロの努力も虚しく、会話が途切れそうになった。

 

あきぴでの咄嗟の閃きで、ヒロにこう質問した。

「君は何部?」

質問には同じ質問で返す。あきぴでにももしかしたらコミュニケーションの才能があったのかもしれない。

「俺はね、テニス部!」

「そうなんだ!よろしくね。」

あきぴでにはコミュニケーションの才能はなかった。

ヒロの威勢いい返事もはかなく散ってしまい、会話はそこで終わってしまった。

あきぴではコミュニケーションを終わらせる方法というものを若くしてすでに心得ていた。

 

そこからしばらくあきぴでとヒロは話すことがなかった。

最初のラポール形成に失敗すると友達作りに苦労することをあきぴでは学んだ(家に帰るまでが遠足 ーthe time when we metー - 富山の石垣島)。

これからはラポール形成には全力を尽くすことを肝に銘じた。

 

高2からは文理でクラスが分かれ、文系にいったあきぴでと理系に行ったヒロが混じり合うことは二度とないはずだった。

しかし今もこうしてマイメンとして共にチルしているのを思うと人生何があるか分からないものである。

 

彼の名はヒロと言った。

 

 

あきぴで

 

人は話し方が9割

人は話し方が9割

 
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